読解:
問題8 次の文章を読んで、後の問いに対する答えとして最もよいものを、1•2•3•4から一つ選びなさい。
(1)
環境問題は深刻である。また、生命科学の研究は、われわれが理解し納得できるスピードを超えて速く進んでいる、科学によって引き起こされた、あるいは引き起こされるかもしれない問題は、科学の力を借りて解決されるのでもない。解決には科学者だけではなく、科学を専門としない人の参画(注1)も必要である。「社会の中の、社会のための科学」という認識に基づいた科学を専門とする人の行動が必要とされている。一方、市民の側も、専門家任せにせず、科学的素養(注2)に基づき、自ら、適切な判断や選択をする必要がある。
(黒田玲子『科学を育む』による)
(注1)参画:加わること
(注2)素養:学んで身につけたこと
46)筆者の考えに沿うものはどれか。
1 市民が専門的な科学の知識を身につけられるように、科学が手助けしなければならない。
2 科学者のみならず、市民も科学の専門的知識を身につけ科学の専門家とならなければならない。
3 科学的素養を持たない市民でも適切な判断や選択ができるように、科学者が配慮しなければならない。
4 専門家だけで問題を解決使用せず、市民もその科学の素養によって解決を目指さなければならない。
(2)
われわれは何にでも意味を見つけたがります。どんなものでも意味がなくては落ち着きません。意味とは、とりもなおさず(注1)、分からないものを分かるようにする働きです。目の前に得体の知れない(注2)モノを突き出されると、われわれの心は当惑(注3)します。必ず「それ、何?」と聞きます。あるいは思わず手を伸ばして触ろうとします。触って何か分かろうとするのです。あるいは、それほど素直でない人は、心の動揺を隠して、知ったかぶりをしつつ(注4)、心の中では必死になって、それが何かを知ろうと
手掛かりを求めます、意味が分からないままではわれわれの心は落ち着きません、それが生物としての自然な傾向なのです。
(山鳥竜『「わかる」とはどういうことか-認識の脳科学』による)
(注1)とりもなおさず:すなわち
(注2)得体の知れない:それが何であるか全くわからない
(注3)当惑する:困る
(注4)知ったかぶりをする:知らないのに知っているふりをする
47)筆者の言う「生物としての自然な傾向」とは次のどれか。
1 手掛かりを求めて素直になる。
2 得体の知れないものに必死になる。
3 ものごとを理解し心を安定させる。
4 知ったかぶりをしていることを隠す。
(3)
人が何に価値を見いだすかは、その人が自分で決めるものである。他人に言われて、規則で決まっているから、はやっているからとかという「外にある権威」に従うのではなく、何が自分にとって価値があるかは、自分の「内にある権威」に従って、つまり、独自の体験と論理と直感によって決めるものだ。その意味で価値を認知する(注)源は「閉じて」いる。
(注)認知する:ここでは、認識する、認める
48)「価値を認知する源は『閉じて』いる」とあるが、どんな意味か。
1 その人自身が認めることは、その人以外にとっても価値がある。
2 何に価値があるかという判断基準は、その人だけが持つものである。
3 価値があると他人が思うことは、自分の価値観によっても肯定される。
4 体験、論理、直感の源は、その人が価値を見いだせるものの中にある。
(4)
足・手・口を動かすというのは、大まかな括りで言えば(注)、脳の運動系と呼ばれる機能を使うことです。
活性化させたいのは思考系なのに、なぜ運動系の機能を使うのかと思われるかもしれませんか、その理由は、次のように考えると納得されやすいでしょう。
私はここに、多くの現代人が脳に関してもっとも誤解している点があるような気がしますが、人間の脳は、思考系がそれだけで存在しているわけではありません。人間に至る千仏の進化の過程や、赤ちゃんが人間らしい高度な思考力を獲得していく過程を考えてみても分かる通り、思考系以前に感情系や運動系などの機能があります。
(中略)
その前段階の機能を十分に動かしておくことが、じつは、その後の思考系を活性化させるのに有効な手段になります。
(築山節『脳が冴える15の習慣 記憶・集中・思考力を高める』による)
(注)大まかな括りで言えば:おおざっぱにまとめると
49)筆者の言う、脳についての正しい理解はどれか。
1 生物の進化の過程を見ていくためには、脳の運動系の機能が重要である。
2 運動系の活性化のためには、脳の高度な思考系の機能を獲得すべきである。
3 脳をよりよく発達させるためには、思考系の機能の活性化が不可欠である。
4 脳の思考系の活性化のためには、運動系の機能を働かせておくことも必要である。
問題9次の文章を読んで、後の問いに対する答えとして、最もよいものを1·2·3·4から一つ選びなさい。
(一)きわめて多くの死者を出し、生きのびた人々も辛うじて死を免れた人たちであるような大災害の場合には、被災者はきわめて緊迫した状況のもとに置かれる。しかも、電気や水道、ガスなどライフランは切断され、鉄道や道路網など、交通手段も寸断されてしまったため、被災地はあらゆる情報の空白域となっていた。
この情報の空白域を自ら埋めようとして、自家製の情報を作り出す場合がある。デマはこのようなものとして生まれる。時に、災害時のようなストレスの状況のもとでは、ストレスを軽減し、自分自身の恐怖や不安を合理化するため、デマを作り、50それを他人に伝えたいという願望が強まる。
このようにして作られたデマ情報は、何らかの根拠のないものであったり、事実を誇張したものであったりする。デマは、災害時の混乱に51拍車をかけ、過度の不安を与え、時には誤った行動へ人々を駆り立てる。
デマには二つの特徴がある。第一に、デマは伝言ゲームのように、個人から個人へと、直接に伝えられるということである。したがって、デマが伝わっていく途中で新たな内容が付け加えられたり、その逆に、今まであったものが削除されたりする。第二に、デマはその真偽を確認できない状況のもとでのみ存続し得るということである。デマの内容自体が異常であるとしても、異常な背景の中に埋もれているため、情報という光のない場所では、その特異性は目立たない。それ故に、52デマは容易に信じられてしまうのである。
50)「それ」は何を指しているのか。
1 デマ 2 ストレス 3 恐怖や不安 4 情報
51)「拍車をかけ(る)」の意味と最も近いものは次のどれか。
1 促進して 2 ブレーキをかけ 3 歯止めをかけ 4 歓迎して
52)「デマは容易に信じられてしまう」理由は何か。
1 デマは公のメディアを通ることなく個人から個人へ直接に伝えるから
2 デマの異常な内容も異常な背景の中に埋もれると、一片の真理を有するから
3 情報が十分届かないため、デマの内容の異常さが異常と感じられないから
4 途中で加えられる新たな内容を確認できないまま伝わっていってしまうから
(二)テレビの世界で一番嫌い言葉は私にとって「送り手」と「受け手」という言葉である。大量にコミュニケーションを行うから「マスコミ」と言い、テレビはその媒体として最大の存在のはずなのだが、そこで厳然たる役割分担があって、一方は「送り手」、他方が「受け手」というのでは、本当のコミュニケーションと言い難い。
しかし、この区別は現実に明確に存在している。
この関係の中で最も不幸な部分は、互いが互いを腹の底では軽蔑し合っていることである。
受け手=視聴者は確かにテレビをよく視るが、それを俗悪なしろものだと思っている。
一方、送り手=製作者たちは、俗悪だと言いながら受け手たちが最も好んでみるのは俗悪な番組であることを見せ続けられて、視聴者を内心では軽蔑している。
受け手の意向の量的表現=視聴率がほとんどすべてである世界で、次に起きる現象は「悪貨が良貨を駆逐する」ことである。
視聴率さえ取っておけば、どんな「やらせ」をやろうとも、メディアの責任を考えればモラルに反すると思うことをやっても、大手を振ることができる世界で、それを見習っていく人間と、そんなことはしたくないと気力がなえてしまう人間とが生まれ、富み栄えるのは前者ということになる。
「国民の民度以上の政治はない」と言われるが、テレビについても、政治と同じことが言えそうな気がする。
だが、それを嘆いたり、肯定することからは何も生まれない。
私がこういうことを言って「送り手」の中から53「裏切者」扱いされるのは一向かわまないが、うんざりさせられるのは54「受け手」の中からタマが飛んでくることだ。
長年のテレビによる「ごますり」に慣れ親しんだ視聴者は少しでもこういうことを言うと傲慢だと非難する。このテレビ状況で損をしているのは「受け手」のほうなのに…
(『若者考現学』朝日新聞社による)
53)「裏切者」扱いされる」と言う言葉から、筆者についてどんなことが分かるか。
1 筆者はマスコミ評論家である 2 筆者は「送り手」でも「受け手」でもない
3 筆者はテレビの製作側の人間である4 筆者はテレビの視聴者代表である
54)「「受け手」の中からタマが飛んでくる」とはどういうことか。
1 視聴者から応援されること 2 視聴者から非難されること
3 スポンサーから叱られること 4 国から攻撃されること
55)この文章には続きがあって、筆者は「『受け手』の『受け手』による『受け手』のた
めの対抗策」を提案している。ここまでの論旨から、筆者の提案で考えられないものはど
れか。
1 視聴率にかかわらず、自分がよいと思う番組をもっと支持する
2「受け手」と「送り手」の差別をなくすために、番組づくりに参加する権を要求する
3 視聴率の高い番組は優れた番組なので、視聴率の高い番組を選んでもっと見る
4 スポンサーは消費者=視聴率に弱いのでテレビ局への講義、批判をスポンサーに向ける
(三)時代の要請は一つの言葉を輝かせたり、死語にしたりもする。ここ一、二年、輝きを増してきた言葉に「もったいない」がある。昨年から「容器包装リサイクル法」や「家電リサイクル法」が順次スタート。大量消費から循環型社会への転換である。物不足時代の美徳だった質素倹約の「もったいない」が、地球資源や地球環境の視点から復権してきた。
大手化学メーカーが実施した「現代主婦の環境対策」のアンケート調査によると、捨てられて「もったいないもの」のベスト3は衣料品と家具類家電類だそうだ。確かに、サイズが合わなくなった衣料品や、新築、引越しなどで不用になった家具類、買い替え後の家電類の再利用は、せいぜいリサイクルショップにゆだねるぐらいだ。
「もったいない」といえば、小物の家電類だ。ちょっとした故障でも素人を寄せ付けない。わが家の除湿器も接続不良で、コードの位置によって動いたり動かなかったりする。ドライバーを手にしてみたが、「解体してネジが余っては」と思うと結局、( 56 )。
近年の家電類は性能が良く、心臓部分が故障することはまずない。省エネ需要が多い大型家電に対して、故障による買い替えはアイロンや掃除機などだ。大半が接続不良だが、コードの接続部分が本体に組み込んであったり、樹脂で固めたコンセントだったりして「素人はダメ」という圧力さえ感じてしまう。
修理代もばかにならないので勢い、買い替えるはめに。「もったいない」の定直にはメーカー側の優しさも欲しい。
56)( 56 )のところに、最も適切な言葉は次のどれですか。
1 手が出ない 2 手が回らない 3 手が上がらない 4 手が切れない
57)次の言い方で、筆者の意見と合わないものはどれですか。
1 「もったいない」の復権は地球と資源を大切にする時代の要請の反映です。
2 衣料品、家具類、家電類などの再利用はただリサイクルショップに出すだけでは足
りません。
3 ものを大切にするために、一般の人々も家電類を修理する技術を身につけるべきで
す。
4 電器メーカーは製品をもっと修理しやすいように作るべきです。
58)次の中で、文章の内容と合っているものはどれですか。
1 大型家電の買い替えは省エネ需要によるものが多いです。
2 筆者が除湿機を自分で修理するのを結局やめたのはネジが余ったら使う道がないの
でもったいないと思ったからです。
3 小家電の修理代が高く、修理するのがもったいないから、故障したら新しいのを買
ったほうがいいです。
4 ここ二三年、家電の買い替えが多く、不用になった家電類が増えたため、一度死語
になった「もったいない」が復活してきました。
問題10次の文章を読んで、後の問いに対する答えとして、最もよいものを1·2·3·4から
一つ選びなさい。
わたしももう48歳で「お若いですね」とお世辞を言われるような年頃になった。もちろん、そのようなお世辞はたいてい聞き流すが、ときには「若くないよ。昔なら人生50年、もうすぐ終わりだ」と59言い返すこともある。そのようなことを言われ始めるのは、人びとにわたしが老人と見られ始めたということに過ぎないからである。
それは自分が自分を見る場合にも言えることで、「自分はまだ若い」と思いはじめたら、それは老人になったしるしなのである。実際、若い人は「自分はまだ若い」なんて思っていないし、むしろ「もう歳だ」と言うようなことを言いたがる。それが老いはじめると「自分は若い」と言い出すわけで、たいていの老人は自分は実際の年齢より若く見えるし、たとえ若く見えなくても本当は精神的にも肉体的にも若いと信じている。自分は実際の年齢よりも老けていると思っている老人にお目にかかったことはまだない。
たしかに老化の進み具合は人によって異なり、年齢の進み具合と必ず市も一致しないが、ほとんどの老人が実際より若いと言うことは論理的におかしな話で、それなら、実際の年齢通りに老けている老人のほうが例外だと言うことになってしまう。60そんな馬鹿なことはない。老人がそう思っているのが希望的観測に過ぎないことは明らかで?自分の状態よりさらに老けている状態を勝手に「年齢相応」と決め込み、それと自分を比較しているに過ぎない。
つまり、老人になればなるほど自分は若いと思いたがるわけで、したがってこのことから当人の老化の程度を判定できるのではないかとわたしは考えている。かりに老化指数と言う言葉を使えば、61(老化指数)=(暦年齢)-(当人が思っている年齢)という方程式が成り立つ。たとえば15歳の人が自分はもう一人前のおとなで、20歳で通ると思っていれば、老化指数はマイナス5、20歳の人が自分は20歳程度と思っていれば、老化指数は0、40歳の人が35歳程度思っていれば、5、60歳の人が50歳程度だと思っていれば10である。ここに自分は50歳と変わらないと思っている70歳の人と、自分は60歳ぐらいには見えると思っている同じく70歳の人がいるとすれば、老化指数は前者が20、後者が10で、前者のほうが二倍もより老化しているわけである。「近頃の若者は」なんて言うと老いた証拠と笑われるかもしれないが、62近頃の若者には、はたちを過ぎたばかりなのにもう「おじん」または「おばん」になったと嘆き、10代にみられたがる者が、22歳の者が自分は18歳に見えると思っているとすれば老化指数は20代にしてすでに4である近ごろ、そういう若者が多いと言うことは、一方では若者の幼児化がいわれているが、他方では早くから精神的に老けこんでいる証拠ではなかろうか。
(注1)「もう歳だ」:「もう老人だ」 (注2)老化指数:老化の程度を示す数字
(注3)暦年齢:実際の年齢 (注4)おじん:おじさん (注5)おばん:おばさん
59)「59言い返すこともある」とあるが、なぜだと考えられるか。
1お世辞を言われるような年頃になったから
2自分の人生はもうすぐ終わりだと考えたから
3老人と見られ始めたことを意識させられるから
4お世辞を聞き流すのは相手に失礼だと思ったから
60)「60そんな馬鹿なこと」とは、どのようなことか。
1老化の進み具合は人によって異なること
2精神的にも肉体的にも自分は若いと信じていること
3実際の年齢通りに老けている老人が例外になること
4年をとると、「若いですね」とお世辞を言われること
61)筆者が「61(老化指数)=(暦年齢)ー(当人が思っている年齢)と言う方程式が成り立つ」と考えたのはなぜか。
1人によって体力のおとろえ方が異なるから
2老化が進むほど人は若いと思いたがるから
3ほとんどの老人が暦の年齢より若いから 4年齢相応の老け方を決められないから
62)「62近ごろの若者」について、筆者が最も指摘したかったことは何か。
1精神的に幼児化している 2精神的に老け込んでいる
3若く見えるようになった 4老けて見えるようになった
問題11次のAとBはそれぞれ別の新聞のコラムである。AとBの両方を読んで、後の問
いに対する答えとして、最もよいものを1·2·3·4から一つ選びなさい。
A
消費者庁は24日、悪玉コレステロールを増やし心臓疾患のリスクを高めるとされるトランス脂肪酸について、商品への含有量の表示義務付けを検討することを決めた。福島瑞穂消費者行政担当相が記者会見で明らかにした。消費者庁によると、平均的食生活を営む日本人ではほぼ心配ないが、トランス脂肪酸を含む食用油を使ったスナック菓子や揚げ物を大量に食べるとリスクがあり、注意を促す必要があると判断したという。 福島担当相は「米国などでは含有量表示が義務付けられている。国際的動向を踏まえ、国民の健康増進を図る観点から検討したい」と述べた。 トランス脂肪酸は、天然の植物油にはほとんど含まれないが、水素を添加して硬化するマーガリンやショートニングでは製造過程で発生する。 (2009年11月24日産経新聞により) |
B
マーガリンなどに含まれ、動脈硬化などの原因になるとされるトランス脂肪酸について、福島瑞穂・消費者担当相は24日、閣議後の記者会見で、食品中の含有量の表示義務づけを、消費者庁で検討することを明らかにした。 トランス脂肪酸は、マーガリンや調理用の植物油、菓子やづくりに使われるショートニングに含まれている。多量にとると、悪玉コレステロールを増やし、善玉コレステロールを減らす作用のあることが指摘されている。 食品安全委員会によると、日本人の一般的な食生活では過剰摂取が問題になる可能性は低い、としている。欧米諸国では使用した際の食品への表示義務づけや含有量の規制もあるため、福島氏は「国際的な動向も踏まえ、国民の健康の増進を図る観点から検討していきたい」と述べた。 (2009年11月24日朝日新聞により) |
(63)AとBのどちらの記事にも、触れられている内容はどれか。
1 トランス脂肪酸の成分 2 トランス脂肪酸の短所
3 日本でのトランス脂肪酸の使われている現状 4 トランス脂肪酸の用途
(64)トランス脂肪酸の短所と合わないのはどれか。
1 心臓病の危険性を高める 2 血管病の危険性を高める
3 肥満の可能性を高める 4 血液病の可能性を高める
(65)二つの記事により、分かることは何か。
1 これからトランス脂肪酸をできるだけ使わない
2 これから菓子や揚げ物やパンなどを食べない
3 これからトランス脂肪酸の含有量を表示しなければならない
4 これから自分の健康を注意しなければならない
問題12次の文章を読んで、後の問いに対する答えとして、最もよいものを1·2·3·4から
一つ選びなさい。
電話とは、時々、ひどくいまいましいものである。
その憎らしさは、ひとえにその便利さのせいである。―したがって、私の家にも電話がある。
ちょっとした用件なら(いや便利だな 用件などなくても)手紙より電話の方が手っ取り早い。遠距離でなければ、はるかに安い。その上、切手の買い置きがあったはずだけれど、などとやたらにいろいろな引き出しをかきまわさなくてもいいし、雨が降っていようがいまいが、ポストまででかけなくてもいい。
が、何にもまして電話の便利な点は、相手の気分だの都合などを無視して、ブザ――一つで強引に電話口へ呼びつけ、有無をいわざず受け答えを強要することができるところにある。――それはもう、66便利を越えて痛快と言っていい…その痛快さを支えるために、電話をかけられた方が少々不幸になることもあるのは、便利さというものの配分に関する必然性の問題なのかもしれない。実際、風呂や便所へ、入ってしまった後で掛ってきた電話なら堂々と無視できるけれど、入る寸前、つまりほとんど入る態勢になったところを不意打ちに来る電話は、あなたはかなり不幸せにしかねない。(中略)
たまたま家族が皆出かけてしまった日曜日など、なぜか一人で留守番というかっこうの時、電話の鳴るたびに、のこのこ立って行くのがおっくうで、――大体私宛の電話は少ないんだ――断固無視してやろうとは思っても、リーンリーンリーンと鳴り続けるあの音に対して居留守を使うにはよほどの67図太い神経がいるらしく、試しに意地を張ってみると、結局、いちいち席を立つよりも、無視し通すほうがよほど心の疲れは大きいのであった。
にもかかわらず、かける側になってみれば、居ながらそば屋でも寿司屋でも、試したことはないが、警察にでも出前を注文することができるというのは、実際愉快、痛快、喝采に値する。いざという時110番のかわりに「助けて!すぐ来てください、警察御中」と手紙を出す(もちろんその前に葉書や切手を探す、それから速達料金はいくらだったか思い出す…)という手間を思えば、どう考えたって、電話を呪うことなど、68とんでもない忘恩というものである。
無論受け取る立場にしてみれば、郵便のほうが概して控えめで、好感が持てる。(中略)用意でもあれば、帰ってから開封することにして、テーブルの上に放り出してしまってもいい。手紙はおくゆかしく、こちらが返事をするまでけたたましい音を立て続けたりはしない。
手紙は面倒なのは、さよう、自分が書く側にまわった時のことである。電話無精という言葉はまだないけれど(個人的に私にはあるのだが)、筆不精という悩みは確実に存在する。と、ここでちょっと69不安になって、ひょっとすると不精ではなく無精だったかしら…と、思い惑うところが、即ち手紙を書くのはくたびれるという理由の一つに相違ない。
本当なのだ。電話なら、不意を狙われた相手がまごついているところへ、こちらはいい状態にあるから、好調にまくしたてればいいし、主語と述語が噛み合っていようがいまいが、間違って自分のほうに敬語をつけようが、どうせ小用を堪えて曇ったとすると、もはや、結論は出たようなもので、その短絡的結論によれば、発信は電話、受信は手紙に限るのである。 (佐藤信夫「レトリックの」記号論より)
66)「66便利を越えて痛快」という言い方で筆者は何を言いたいのか。
1 便利だという言葉では表現できない痛快さがある
2 便利であることもあれば、痛快であることもある
3 便利さというものは痛快さを越えたところにある
4 便利だということは常に痛快だということである
67)「67図太い神経がいる」とは、この場合、どういうことか。
1 電話に出るのをおっくうがらないこと
2 鳴っている電話を無視して平気でいること
3 電話の音がどんなに大きくても驚かないこと
4 日曜日には一人で留守番ができること
68)「68とんでもない忘恩」とはどういうことか。
1 こちらから電話をかける時のありがたさを忘れていること
2 いつも世話になっている人に手紙を出して迷惑をかけること
3 電話でそば屋や寿司屋に出前が頼めることをありがたいと思うこと
4 風呂や便所に入る時のありがたさをわすれていること
69)「69不安になって」とあるが、何が不安なのか。
1 確実にあるのは筆不精という悩みだと本当にいえるのかということ
2 自分は本当は筆不精ではないのかかもしれないということ
3 「ぶじょう」は漢字で本当に「不精」と書くのかということ
4 電話不精という言葉は本当なまだないのかということ
問題13次の問いに対する答えとして、最もよいものを1·2·3·4から一つ選びなさい。
都内のホテルで以下のような冬季アルバイトを募集しています。
仕事内容 | 勤務時間 | 募集人員 | 期間 | 給料 | |
フロント係 | 夜勤 | 19:00-8:00 (仮眠1:00―5:00) | 1名 | 12.1-1.30 | ¥8000 日 |
食堂係 | 食事のサービス | 7:00-10:30 17:00-22:00 | 2名 | 12.20-1.30 | ¥900 時間 |
運転手 | 送迎車の運転 | 9:00-18:00 | 1名 | 12.20-1.10 | ¥8500 日 |
客室係 | 客室の清掃 | 8:00-17:00 | 2名 | 12.10-2.26 | ¥800 時間 |
*フロントの仕事は日本語のできる人に限ります
*アルバイトは20日以上続けなければなりません。日程は相談して決めます。
*宿舎、食事、交通費はホテル側が用意します。
キムさんは冬休みに1か月ぐらい働きたいと思っています。日本語はあまりうまくない
ので、夜の会話クラスに参加したいそうです。運転免許は持っています。
70)キムさんはどのアルバイトを選びますか。
1フロント係 2 食堂係 3 運転手 4 客室係