您的位置:首页> 资料下载 > 日语阅读资料下载 > 【牧野 信一】I Am Not A Poet, But I Am A Poet(アイ アム ノット ア ポエット,バット アイ アム ア ポエット)日文版
「今日は二人で、こうして海を眺めながら、歌を作り合ふじやありませんか。
貴方は文科へ行つてゐらつしやるのだから定めし詩や歌をお作りになることがお上手でせう。
私なんか、どうもたゞ下手の横好で……ちよつと待つて下さい――えゝと、
ひとつ出来ました。
まあこんなものですが、見て下さい。」
「……ウム。こりや、うまい、ほんとにうまい、実によく整つてゐますね。」俺にはとてもこんなに巧みに歌ふことは出来ない、と私は思ひました。
「さあ今度は貴方の番です。」
「私は出来さうもありません。」と私は自分の心の儘を云ひました。
「戯談じようだんじやありませんよ。謙遜されては私が困つて仕舞ひます。」
「謙遜? ハツハヽヽ、それや恐れ入つた。」
「私には、まあそれは謙遜とより他に思へませんもの、だつて、
貴方は朝からこうして、黙つて海ばかり眺めて暮してゐるじやありませんか。
それは歌でなければなりません。詩でなければなりません。――もういゝ時分です。歌が出来上つた時分です、さあお聞かせ下さい。」
――何と云はれても出来なければ仕方がない。成程俺は今朝から海ばかり眺めてゐる、その間には多少、詩になりさうな気持も浮むで来ないでもない……然し俺にはそんな気持はどうしても書き現すことは出来ない、俺は、
「最後のものを歌ひ度い。」――美しい、と思つた瞬間、悲しいと思つた瞬間、それは俺にとつて「最後のものだ。」それが書ければ文句はないのだが……俺は常にその刹那に出遇つた時、ふとある空虚を感ずる、何といふ悲惨なことだらう……悲しい、と感じた瞬間には、俺は、「余り悲しくない」と思つてしまふ――と、笑ひたくさへなつてしまふ――俺は「恍惚」に浸る夢心地をもつことが出来ないのだ、あゝ俺はもう今、俺の想ひは、この人に責められてゐるといふことから全々離れてしまつた――。
私はこんな事を考へて居りました。
「さあ、もうお出来になつたでせう。」
「――――」
......
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底本:「牧野信一全集第一巻」筑摩書房
2002(平成14)年8月20日初版第1刷
底本の親本:「金と銀 第一号」金と銀社
1920(大正9)年4月5日発行
初出:「金と銀 第一号」金と銀社
1920(大正9)年4月5日発行